【文章內(nèi)容簡(jiǎn)介】 較において明瞭となるところの作品造型のモチーフといえるのである。したがって、『山月記』一篇の主題はこの點(diǎn)を重要視するところから導(dǎo)き出されることは當(dāng)然だろう。この點(diǎn)を詳しく検討する前に、まず作品の序章にあたる部分を考えることから入っていこうと考える。 ４．２ 『山月記』の序章 ――中島敦の共感と「二つの挫折」 人間が虎に化すという一見荒唐無稽な怪異譚の場(chǎng)合、読者に感動(dòng)を與えるためには、怪異の裏に潛む人間的な真実ともいうべき支えが必要とされるだろう。その真実の強(qiáng)烈 さが、「譚」的世界を突き抜けて人々の心をとらえる働きを示す?！荷皆掠洝护悉饯欷颏嗓韦瑜Δ诵蜗蠡?、如何なる現(xiàn)実性を獲得しえていると言えるだろうか?；ⅳ然龚D―といった一點(diǎn)をめぐって考察を進(jìn)めようと考えるが、その前提として作品における主人公の狀況設(shè)定から見ていきたい。 作品の冒頭部、第一文節(jié)（『山月記』の本文を、改行ごとに一文節(jié)とし、全體は二十一文節(jié)からなっている。）は主人公李徴の境遇、その中での苦悶を語った部分である。それと同時(shí)に、李徴が虎に変身するに至る、いわば踏切臺(tái)のような作用を働いている要因を中島は配 置している。この狀況設(shè)定は、後に友袁 傪 に告白した際の自分自身の考えた変身の原因と密接な関連を持っている。第一文節(jié)は、『山月記』において、およそ七分の一を占める文章であるが、この文節(jié)の持つ意味は大きい。作品における時(shí)間に関していえば、この文章のみが一年、もしくはそれ以上長(zhǎng)い過去の物語であり、第二文節(jié)以下から最後に至るまでは、過去の出來事、思い出を語る場(chǎng)面はあるにしても、袁 傪 が、虎になった李徴に出會(huì)ったある朝の數(shù)時(shí)間の事件なのである。つまり、第一文節(jié)は作 19 品の序章の役割を果たしただけでなく、作品の背景、または基盤 をなす內(nèi)容を語った部分ともいえるだろう。では、どのような點(diǎn)が作品の背景となっており、また基盤をなしているのであろうか。 李徴は「博學(xué)才穎」、「若くして名を虎榜に連ね」る俊秀であったが、「性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしな」い人物として登場(chǎng)する。李徴のこの人物設(shè)定は、原典素材となった『人虎伝』の變述にほぼそのまま従っている。が、中島敤は『人虎伝』の「 才を 恃 んで 倨傲 なり」という表現(xiàn)の「才」に、原典素材に見られなかった詩人としての才能を賦與したのである。すなわち、前も何度も引用したように 、「詩家としての名を死後百年に遺そう」とする 李徴の造型を試みたのであった。ここには、中島敤本人の深い共感も込められたのだろう。高等女學(xué)校の教師をしながら作家を志し、懸賞小説に応募しつつ小説を書き継いで來きた中島敤の心持ちがここで窺われる。それは又、中島敤のもう一篇の作品『光と風(fēng)と夢(mèng)』の主人公スティヴンスンに託して洩らした次の言葉にも通じる心情である?！?人生とは、私にとって、文學(xué)でしかなくなった。文學(xué)を 創(chuàng) ること。それは、歓びでもなく苦しみでもなく、それは、それとより言いようのないものである。 」物語に詩人という 存在を設(shè)定する必然性には、中島の願(yuàn)望ともいうべき決意がある。しかしながら、この文學(xué)における才能、決意が李徴を「賤吏に甘んずるを潔しと」させない作用を持つことになってしまった。才能があるゆえに、現(xiàn)実生活に対して憎悪感が生じてくるのである?！荷皆掠洝护伪憩F(xiàn)は、はっきりと、詩人を志す李徴は役人としての実生活に合致していないと言っている?！喝嘶弧护摔悉饯Δ筏棵鞔_に言っていない?！覆W(xué)、善く文を?qū)伽埂工趣いΑ覆拧工悉ⅳ毪摔筏皮?、その才能によって自己実現(xiàn)、もしくは「下吏となって長(zhǎng)く膝を俗悪な大官の前に屈する」というこ とから脫出することを図るために、現(xiàn)実と衝突を起こすのではない。むしろ、『人虎伝』では「 性疎 逸、才を 恃 んで 倨傲 」という面のみが片面的に浮びあがっている。 そして、ここで注意が必要なことは、 李徴が二つの挫折を味わっているということである。第一は詩人としての「才」を持っていると考えたことからくる、憎悪感による官吏生活における挫折であり、もう一つは官吏を辭し、専ら詩人 20 を志したのにもかかわらず、「文名は容易に揚(yáng)がらず、生活は日を逐うて苦しくな」ったため、「遂に節(jié)を屈し」たことである。官吏として、詩人としての二つの挫折 は、李徴という人物の存在基盤を喪失させる作用を持っている?，F(xiàn)実においてはもとより、自恃をかけた詩においても本意を得られなかったためである。彼の身を委ねた場(chǎng)所は、もうどこでもなく、喪われざるをえない。李徴は以前にもまして自尊心を傷つけられることになる。役人として生活を再び経験しなければならない事態(tài)に追い込まれたからである。 彼は怏々として楽しまず、狂悖の性は愈々抑え難くなった。 彼の「狂悖の性」には詩人としての挫折感が深く根をおろしている。自己の存在を意義付けるべき場(chǎng)所を失った絶望感が含まれているのである 。この絶望感を念頭において、李徴の袁 傪 にたいした告白を聞かなければならないのだろう。ここにおいて、のち彼が虎、言い換えれば異物、と化すという狀況設(shè)定がすでになされたのである。 こうした狀況設(shè)定を背景として李徴の告白がある。果たして彼は決定的ないかなる契機(jī)のもとに、「発狂」し、虎へと変貌していったと語るのであろうか。理想と現(xiàn)実の不一致、理想実現(xiàn)への努力、挫折、再び現(xiàn)実における葛藤という心理的な病は、言うならば社會(huì)の一員として自立する際、誰でも経験しなければならないといっても過言ではない精神的過程である。しかし 、李徴はそこから一挙に異物の世界へと突き進(jìn)んでしまった。一體、それは何故か、という疑問が読者たちの心で生じてくるであろう。 袁 傪 にむかって李徴自らの語る「どうして今の身となるに至ったのか」、その原因について述べるくだりは、作品中に三箇所ほど指摘できる。 第一の場(chǎng)面として、第六文節(jié)の次のような李徴の言葉があげられる。 自分は初め眼を信じなかった。次に、これは夢(mèng)に違いないと考えた。夢(mèng)の中で、これは夢(mèng)だぞと知っているような夢(mèng)を、自分はそれまでに見たことがあったから。どうしても夢(mèng)でないと悟らねばならなかった時(shí)、自 分は茫然と 21 した。そうして懼れた。全く、どんな事でも起り得るのだと思うて、深く懼れた。しかし、何故こんな事になったのだろう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。 ここでの李徴の告白は、不條理ともいうべき人間そのものの存在、あるいは人間存在のあり方に対する懐疑について語っているといえよう。 第二は、すでに上に引用した場(chǎng)面である。第十四文節(jié)、「何故こんな運(yùn)命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように 依れば、思い當(dāng)ることが全然ないでもない。等等?！工趣い盲俊感郧椤工摔膜い剖訾伽氩糠?。 第三は、第十八文節(jié)の次の言葉が挙げられる。 本當(dāng)は、先ず、この事の方を先にお願(yuàn)いすべきだったのだ、己が人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業(yè)の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を墮すのだ。 『山月記』には以上の三箇所の李徴自らの言葉によって、変身の原因が語られている。それぞれに検討を加えて、一體何処に李徴が本音を述べられており、また作者中島敤の真意、近代人の物語への変容がどのよう に表れているかを探ろうと考える。 ４．３ 変身の原因 ――人間存在への懐疑 第一の変身の原因を「分からぬ」と述べる部分について『人虎伝』では、次のような表現(xiàn)を採用している。 道ずがら汝の 墳 に次る。忽ち疾に 嬰 りて発狂し、夜戸外に吾が名を呼ぶ者有るを聞く。遂くて聲に応じて出で、山谷の間を走り、覚えず左右の手を以て地を攫んで歩す。是自り心愈々 狠 く、力愈々倍すを覚ゆ。その 肱髀 を視るに及んで、即ち斑の毛の生ずる有り、心に甚だ之れを異しむ。既にして渓に 22 臨んで影を照らせば、己に虎と成れり。悲慟良久しゅうす。然れども 尚お生物を攫んで食らうに忍びざりき。既に久しゅうして、飢えて忍ぶ可からず。 上の引用した文が『山月記』の前引用の部分に相當(dāng)する。したがって、『山月記』の文章が、『人虎伝』の「心に甚だ之れを異しむ」という言葉に導(dǎo)かれたともいえよう。しかしながら、そのほとんどは中島敤自身の創(chuàng)意によるものであることは比べてみたら、明らかなことであろう。というならば、中島敤自身の意図された?jī)?nèi)容が盛りこまれていると思えるだろう。実はこのことを、中島敤の作品シリーズの中でとらえてみると、『狼疾記』における三造の「存在の不確かさ」とい った観念や、「彼は何時(shí)も、會(huì)體の知れない不快と不安とを以て、人間の自由意志の働き得る範(fàn)囲の狹さを思わない訳にいかない」という感慨は、上の 李徴の「分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ?！工趣窝匀~に相応するものであると視ることができる。すなわち、李徴という人物は獨(dú)立しているわけでなく、これまでの中島敤の作品の主人公の延長(zhǎng)線上に李徴をおいて眺めてみると、李徴の獨(dú)白は作者中島敤にとって一時(shí)の思いつきで創(chuàng)られたではない ことが判るのである?！喝嘶弧护巫兪訾?、數(shù)倍の長(zhǎng)さの獨(dú)自の內(nèi)容をもった文章に書き下ろしているのも當(dāng)然であろう。 これらの言葉が李徴のまず最初に頭に浮かべる自己の変身の原因として作者中島敤によって設(shè)定されているのは、それなりの必然性を持っていると考えられる。先人の研究結(jié)果を引用すると、それは作者の身に纏い付いた「生の根元に纏わる不安な夢(mèng)」 といえるのかもしれない。けれども、中島にとってこの不安は「夢(mèng)」と呼べる程度のものではないと思う。たとえば、『狼疾記』の中で、こういう表現(xiàn)が用いられている、「もはや観念とし てではなく、感覚として、彼の肉體の中に住み著いて了った」というものである。中島敤の存在に対する不安が、すでに観念というものの領(lǐng)域を超えてしまっており、李徴という人物もこうした様相を擔(dān)った人物として造型されている?！汗抛T』諸作品 4 平林文 雄 ． 2021． 中島敤――注釈 鑑賞 研究 [M]．東京： 和泉書院 ． pp82 23 では、こうした不安感を、『文字禍』の老博士ナブ?アヘ?エリバの姿に見出すことができる。博士は文字の研究に命じられ、ひたすら探求したあげく、分析病という精神的な病に取り付かれてしまい、ついには「人間生活の凡ての根底が疑わしいもの」に見えてきたのである。たとえ虎に変身しなくとも、精神的な病 理に苦しんでいるその姿は異工同曲であろう。 このように見てくると、『山月記』における李徴の最初の獨(dú)白は、その表面上の言葉以上に根深い作者の人間存在への懐疑、不安が込められているようである。李徴の呟く「己の中の人間の心がすっかり消えて了えば、恐らく、その方が、己はしあわせになれるだろう。」との言葉も、誇張ではなく、作者本人の実感によるものであろう。しかしながら、続いて李徴はまた言う、「ああ、全く、どんなに、恐しく、哀しく、切なく思っているだろう！己が人間だった記憶のなくなることを。」まさに、李徴という一人の人 間存在が滅びようとすることを恐れての叫びといえよう。人間存在への不安、もしくは矛盾しているともいえる気持ちがここではっきり現(xiàn)れている。李徴は人間と虎とに引き裂かれてしまった狀態(tài)にいる。一匹の兎を見ると、「人間は忽ち姿を消し」、再び、「人間が目を覚した時(shí)」、己の運(yùn)命に恐れ、また戦かざるを得ない。そして今、李徴は次第に人間性を失いつつあることを恐れているのである。 ４．４ 変身の原因 ――「臆病な自尊心、尊大な羞恥心」 第二の原因を述べる部分をみていこう。李徴は、「何故こんな運(yùn)命になったか判らぬと、先刻は言っ たが、しかし、考えように依れば、思い當(dāng)ることが全然ないでもない。」と半分腑に落ちないながらも、あえて自分の中にその責(zé)任を見出そうとしている。けど、これが後述するように、李徴が運(yùn)命の劇変の原因を自分自身の中に確認(rèn)せざるをえないという辛い心情を表したものである?！喝嘶弧护趣伪容^は、前述したように、この部分はとりわけ原點(diǎn)素材からかなり離れていた。つまり、作者中島敤の獨(dú)創(chuàng)によって、創(chuàng)られた場(chǎng)面である?！豪羌灿洝护沃肖摔狻ⅰ敢懿·首宰鹦摹工摔膜い皮伪憩F(xiàn)が『山月記』のとほぼ同様であるから、作者の関心の深さがはっきりと わかる。 李徴は、「思い當(dāng)ること」として自分の「性情」を提出したのである。こう 24 いう「性情」とは、一體どのようなものなのだろうか?！敢懿·首宰鹦摹?、「尊大な羞恥心」という二つの言葉に形容された「性情」が、作品に繰り返し述べられている説明で分かれるのであろう?！概幛迫摔趣谓护铯辘虮埭薄?、詩人を志しながらも、「進(jìn)んで師に就いたり」はしなかったこと、また、「俗物の間に伍することも潔しとしなかった」こと、全部この「性情」のせいだという。そのあげく、「臆病な自尊心」を「飼いふとらせる」ことになってしまい、「尊大な羞恥 心」が「猛獣」になったことを悔やまなければならなくなった。 「臆病」と「自尊心」、「尊大」と「羞恥心」とは、一