尚書稽疑(內(nèi)藤湖南)-資料下載頁
2025-08-03 12:09本頁面
【正文】 に其の門下を去る遠(yuǎn)からざる時(shí)代に爲(wèi)されたのであらうが、堯舜や禹に關(guān)するものは更に其の以後に附け加へられたものと考へ得られぬことはない。其他六國の末から漢初に至る間には又一種の思想があつて、魏源も指摘せる如く、史記の殷本紀(jì)の湯誥に三后は其后皆立つこと有りと言へる如き思想が餘程一般に行はれたものゝやうである。史記の如きは明かに其の思想を以て書かれたもので、陳杞世家の末には人民に功徳の有つた人の末孫が或は帝王となり或は大諸侯となつたのであつて、それには世家言あり本紀(jì)言ありと斷つてゐる。それで尚書に在りても史記が本紀(jì)若しくは世家に於て表はしたことを其の典謨に於て表はしたゞけの差であつて、兩者は同じ思想の産物たることを明白に認(rèn)め得られる。されば皐陶謨の如きは其の思想によつて明かに解釋し得るのであつて、皐陶の如く刑罰を掌つた者が重んぜらるゝのは――甫刑で伯夷の如く刑罰を掌つた者を重んずるも同樣であるが――法家名家の起つて以後の晩周の思想たることが知られるのである。要するに皐陶は晩周思想と、特に皐陶が秦の先祖であるといふ傳説から、堯舜と並べられて尚書の主なる部分に入れられたのであつて、文辭から言つても、典謨中皐陶謨は最も新らしき要素を含んだものであると思ふ?！∫陨鲜訾证胨蚩偫à工欷?、尚書は最初周公に關(guān)する記録が其中心であつたものと想像される。尤も今日の五誥は儒家が持ち傳へてゐる間に各の時(shí)代の語を以て古語を取り替へた跡があるのであつて、それは例へば史記が訓(xùn)詁の詞を以て本文を替へたことが、古文今文の議論を外にしても確かに考へらるゝと同樣である。此等の篇が現(xiàn)存の毛公鼎や其他の金文に比すれば文從字順で讀み易い傾のあるのは即ちそれが爲(wèi)めであると思ふ。而して儒家思想の發(fā)展に伴ひ、次第に本文に變化を來したのであつて、其の初め魯を王とする説、孔子を素王とする説であつたものが、他の諸子との競爭上、道統(tǒng)を古きことにする必要より典謨の諸篇が附け加へられ、儒家が六國に用ゐられ、曲學(xué)を爲(wèi)す必要より、甫刑以下の各篇が順次に附加せらるゝに至つたものであらう。此變遷は既に伏生が尚書を世に出す前に於て行はれつゝあつた所で、その間には儒家の傳へた尚書と墨家の傳へた尚書との間に相違ある如く、儒家の間に在りても各分派によりて夫々異つた本文を傳へてゐたのであるが、それは漢以後伏生の尚書によつて統(tǒng)一された爲(wèi)めに、他の者は皆形を失つてしまつたのである。これだけの變化のあつたことは、尚書を研究する際、先づ考へて置く必要があらうと思ふ。 以上の如き方法を以て他の經(jīng)籍をも順次に研究し、從つて其間に自然に儒家思想の發(fā)展史を見出す事が出來たならば、茲に始めて先秦古籍の研究が完全に出來上るであらうと思ふ。而して此等の事業(yè)は予が吾黨の諸君に向つて厚く望む所である。（大正十年三月發(fā)行「支那學(xué)」第壹卷第七號(hào)） 自注（一）孟子縢文公上に決汝漢排淮泗而注之江とあり、今の尚書禹貢では江水と淮水とは各々獨(dú)立して海に入るので、相通ずることがない。閻若は四書釋地續(xù)に於て、朱子の説に從つて孟子が一時(shí)の誤記に出でたものとしたが、錢大は孟子ほどの人が禹貢を讀み能はなかつた筈がないといつて、呉淞江、錢唐江、浦陽江の三江さへ江の委であるから、五百里位の距離の淮口も江の下流とするに何の疑があらうといつて、從來學(xué)者が淮泗が江に入らぬ證據(jù)として擧げた禹貢の沿于江海、達(dá)于淮泗の二句を、反つて淮泗が江に注ぐの證とした、焦循の孟子正義は趙注の決、排兩字の注を據(jù)として、下流の注入でなく、上流の交會(huì)であると、巧妙に解釋したが、要するに皆禹貢が孟子より古く、孟子が之を見ぬ筈がないといふ前提から發(fā)したもので、本來は孟子の説が禹貢と違つて居ると見るのが穩(wěn)當(dāng)で、孟子は禹貢を知らなかつたと考へて差支ない譯である。墨子の兼愛中篇にも禹の治水を敍して、南爲(wèi)江漢淮汝東流之注五湖之處以利荊楚于越南夷之民とあれば、禹の治水に關(guān)する傳説に、自ら此一派があつて、禹貢とは異つた尚書があつたのであらう。（二）宋の王柏は論語の堯曰篇首の二十四字を堯典の脫簡なりとして、舜讓于徳弗嗣の下に補(bǔ)つた、又同篇の曰予小子履以下四十六字は、墨子兼愛篇に引ける湯説と殆ど一致し、（論語の孔注には墨子に湯誓を引けるといつて居る）雖有周親以下四句は、兼愛篇の武王が泰山隧に事ふる祝詞と粗ぼ同じである。又墨子に引ける尚書には呂刑、大誓、仲之誥等、今の尚書と同名の者の外に、今の尚書と異名同實(shí)の禹誓（甘誓）武觀（五子之歌）等があり、同名異實(shí)の湯誓などがあり、今の尚書に全くなき術(shù)令、相年、禽艾、湯之官刑、禹之總徳等もある。（三）朱子語類卷第八十二に左傳是後來人做。爲(wèi)見陳氏有齊。所以言八世之後。莫之與京。見三家分晉。所以言公侯子孫必復(fù)其始。（四）一二の例を擧げて見ると、左傳宣公六年、晉の趙盾が靈公を弒せる事の傳は、公羊傳、國語晉語、呂氏春秋過理篇などに出て居り、同十三年の楚の莊王が宋を圍んだ事の傳は、公羊傳、韓詩外傳、國語晉語、呂氏春秋行論篇などに出でゝ居り、成公四年の梁山崩の傳は、公羊、穀梁二傳國語晉語などに出でゝ居り、或は説話に變化があり、或は思想にも異つた點(diǎn)がある。（五）蘇東坡の洪範(fàn)に關(guān)する説は、東坡書傳に出でゝ居る。東坡は洪範(fàn)の外に、康誥洛誥に就ても異見がある。余が洪範(fàn)を改正せんとした事は宋の明之の中呉紀(jì)聞卷二に見えて居る。（六）王柏の説は其の著なる書疑に出で、堯典、皐陶謨、益稷、洪範(fàn)、多方、立政諸篇に於て、皆其の錯(cuò)脫に注意し、己が意見を以て更定して居る。金履祥は其門下に出て、尚書表注の著があつて、やはり尚書各篇に更定を試みて居る。底本：「內(nèi)藤湖南全集 第七卷」筑摩書房 1970（昭和45）年2月25日発行 1976（昭和51）年10月10日第2刷底本の親本：「研幾小録」弘文堂 1928（昭和3）年4月発行初出：「支那學(xué) 第壹卷第七號(hào)」 1921（大正10）年3月発行入力：はまなかひとし校正：菅野朋子2001年2月5日公開2006年1月18日修正青空文庫作成ファイル：このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫（）で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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