【正文】 しさわぐよ。 （八段） よろこび奏するこそをかしけれ。 九月九日は、曉がたより雤尐し降りて、菊の露もこちたくそぼち、おほひたる綿などもいたくぬれ、うつしの香ももてはやされたる。 五月五日は曇りくらしたる。人々にもいはれて泣きなどす。さて後畏勘事許されて、もとのやうになりにき。なほ顏など腫れためり。 人々まゐり集りて、右近內(nèi)侍召して、かくなど仰せらるれば、笑ひののしるを、うへにも聞し召して、渡らせおはしまして、「あさましう犬などもかかる心あるものなりけり」と笑 はせ給ふ。御鏡をもうちおきて、「さは翁丸」といふに、ひれ伏していみじくなく。さはこれ翁丸にこそありけれ。いかにわびしき心地しけん」とうちいふほどに、この寢たる犬ふるひわななきて、涙をただ落しにおとす。死 にけんこそ悲しけれ。 暗うなりて、物くはせたれど食はねば、あらぬものにいひなして止みぬる。それは打ち殺して、棄て侍りぬとこそ申しつれ?！袱长欷衔掏瑜工纫?jiàn)せ給ふに、「似て侍れども、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。「死にければ門(mén)の外にひき棄てつ」といへば、あはれがりなどする夕つかた、いみじげに腫れ、あさましげなる犬のわびしげなるが、わななきありけば、「あはれ丸か、かかる犬やはこのごろは見(jiàn)ゆる」などいふに、翁丸と呼べど耳にも聞き入れず。翁丸なり。流させ給ひけるが歸りまゐりたるとて、調(diào)じ給ふ」といふ。ひるつかた、犬のいみじく泣く聲のすれば、なにぞの犬の、かく久しくなくにかあらんと聞くに、よろづの犬ども走り騒ぎとぶらひに行く。三月三日に、頭の辨柳のかづらをせさせ、桃の花かざしにささせ、櫻腰にささせなどして、ありかせ給ひしをり、かかる目見(jiàn)んとは思ひかけけんや」とあはれがる。犬は狩り出でて、瀧口などして追ひつかはしつ。只今」と仰せらるれば、集りて狩りさわぐ。御覽じて、いみじう驚かせ給ふ。 （六段） うへに侍ふ御貓は、かうふり給はりて、命婦のおもととて、いとをかしければ、寵かせ給ふが、端に出でたるを、乳母の馬の命婦「あなまさなや、入り給へ」とよぶに、聞かで、日のさしあたりたるにうち眠りてゐたるを、おどすとて、「翁丸いづら、命婦のおもと食へ」といふに、まことかとて、しれもの走りかかりたれば、おびえ惑ひて、御簾の內(nèi)に入りぬ。 「行きて聞け」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門(mén)のことを中納言に語(yǔ)り侍りしかば、いみじう感じ申されて、いかでさるべからんをりに對(duì)面して、申しうけたまはらんとなん申されつ る」とて、またこともなし。ちうせい折敷、ちう せい高杯にてこそよく候はめ」と申すを、「さてこそは、上襲著たる童女もまゐりよからめ」といふを、「猶例の人のやうに、かくないひ笑ひそ、いときすくなるものを、いとほしげに」と制したまふもをかし。 姫宮の御かたの童女に、裝束せさすべきよし仰せらるるに、「わらはの袙の上襲は何色に仕う奉るべき」と申すを、又笑ふもことわりなり。消息をするに、よかなりとは誰(shuí)かはいはんと、げにをかしきに、 つとめて、御前に參りて啓すれば、「さる事も聞えざりつるを、昨夜のことに愛(ài)でて、入りにたりけるなめり。「あれは誰(shuí)ぞ、顯證に」といへば、「あらず、家為人、局為人と定め申すべき事の侍るなり」といへば、「門(mén)の事をこそ申しつれ、障子開(kāi)け給へとやはいふ」「なほその事申し侍らん、そこに侍はんはいかにいかに」といへば、「いと見(jiàn)苦しきこと、更にえおはせじ」とて笑ふめれば、「若き人々 おはしけり」とて、ひきたてていぬる、後に笑ふこといみじ。更にかやうのすきずきしきわざ、ゆめにせぬものの、家におはしましたりとて、無(wú)下に心にまかするなめりと思ふもいとをかし。障子を五寸ばかりあけていふなりけり 。家為なれば、案內(nèi)をよく知りてあけてけり。 同じ局に住む若き人々などして、萬(wàn)の事も知らず、ねぶたければ皆寢ぬ。「何事ぞ、生昌がいみじうおぢつるは」と問(wèn)はせ給ふ。筵道敷きたれば、皆おち入りて騒ぎつるは」といへば、「雤の降り侍れば、實(shí)にさも侍らん。たまたまこの道にまかり入りにければ、かうだに辨へられ侍る」といふ?！袱丹欷砷T(mén)の限を、高く造りける人も聞ゆるは」といへば、「あなおそろし」と驚きて、「それは于定國(guó)がことにこそ侍るなれ。 「いで、いとわろくこそおはしけれ。さてもかばかりなる家に、車(chē)入らぬ門(mén)やはあらん。などかはさしもうち解けつる」と笑はせ給ふ。殿上人、地下なるも、陣に立ちそひ見(jiàn)るもねたし。 （五段） 大進(jìn)生昌が家に、宮の出でさせ給ふに、東の門(mén)は四足になして、それより御輿は入らせ給ふ。これは昔のことなり。 御獄、熊野、かからぬ山なく歩くほどに、恐しき目も見(jiàn)、驗(yàn)あるきこえ出できぬれば、ここかしこによばれ、時(shí)めくにつけて安げもなし。それをも安からずいふ。精進(jìn)物のあしきを食ひ、寐ぬるをも、若きは物もゆかしからん。 （四段） 思はん子を法師になしたらんこそは、いと心苦しけれ。男女の詞。ほどほどにつけて、親をばの女、姉などの供して、つくろひ歩くもをかし。童女の頭ばかり洗ひつくろひて、形は皆痿えほころび、打ち亂れかかりたるもあるが、屐子、沓などの緒すげさせ、裏をさせなどもて騒ぎ、いつしかその日にならんと、急ぎ走り歩くもをかし。 祭近くなりて、青朽葉、二藍(lán)などのものどもおしまきつつ、細(xì)櫃の蓋に入れ、紙などにけしきばかり包みて、行きちがひもて歩くこそをかしけれ。 祭のころはいみじうをかし。櫻の直衣に、出袿して、客人にもあれ、御兄の公達(dá)にもあれ、そこ近くゐて物などうちいひたる、いとをかし?；à馍ⅳ辘郡脶幛悉Δ郡皮疽?jiàn)ゆる。それ もまだ、まゆにこもりたるこそをかしけれ。桃の花の今咲きはじむる。「よきに奏し給へ、啓し給へ」などいひても、得たるはよし、得ずなりぬるこそ、いとあはれなれ。四位五位、わかやかに心地よげなるは、いとたのもしげなり。 除目のほどなど、內(nèi)裏わたりはいとをかし。いかなる心にかあらん、泣きはらだち、打ちつる人を呪ひ、まがまがしくいふもをかし。男君もにくからず愛(ài)敬づきて笑みたる、ことに驚かず、顏尐し赤みてゐたるもをかし。去年より新しう通ふ壻の君などの、 內(nèi)裏へ參るほどを、心もとなく、所につけて我はと思ひたる女房ののぞき、奧のかたにたたずまふを、前にゐたる人は心得て笑ふを、「あなかまあなかま」と招きかくれど、君見(jiàn)知らず顏にて、おほどかにて居給へり。かゆの木ひき隱して、家の御達(dá)、女房などのうかがふを、うたれじと用意して、常に後を心づかひしたる景色もをかしきに、いかにしてげるにかあらん、打ちあてたるは、いみじう興ありとうち笑ひたるも、いと榮々し。 八日、人々よろこびして走りさわぎ、車(chē)の音も、つねよりはことに聞えてをかし。 いかばかりなる人、九重をかく立ち馴すらんなど思ひやらるる中にも、見(jiàn)るはいと狹きほどにて、舎人が顏のきぬもあらはれ、白きもの のゆきつかぬ所は、誠(chéng)に黒き庭に雪のむら消えたる心地して、いと見(jiàn)ぐるし。中の御門(mén)の閾ひき入るるほど、頭ども一處にまろびあひて、指櫛も落ち、用意せねば折れなどして、笑ふもまたをかし。 正月一日は、まいて、空の景色うらうらと珍しく、かすみこめたるに、世にありとある人は、姿容心ことにつくろひ、君をもわが身をも祝ひなどしたるさま、殊（こと）にをかし。 すべてをりにつけつつ。晝になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶（ひおけ）の火も、白き灰がちになりて、わろし。雪の降りたるは、いふべきに もあらず。日入りはてて、風(fēng)の音、蟲(chóng)の音（ね）など、いとあはれなり。夕日のさして、山の端（は）いと近くなりたるに、烏（からす）の寢所（ねどころ）へ行くとて、三つ四つ、二つなど、飛びいそぐさへあはれなり。雤など降るも、をかし。 夏は夜。枕草子 清少納言 （一段） 春は曙。やうやう白くなりゆく、山際（やまぎわ）すこしあかりて、紫だちたる雲(yún)の細(xì)くたなびきたる。月の頃はさらなり、闇もなほ、螢飛びちがひたる。 秋は夕暮。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさく見(jiàn)ゆる、いとをかし。 冬はつとめて。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。 （二段） 頃（ころ）は 正月、三月、四五月、七月、八九月、十月、十二月。一年ながら、をかし。 七日は、雪間の若菜青やかに 摘み出でつつ、例はさしもさる物目近からぬ所に もてさわぎ、白馬見(jiàn)んとて、里人は車(chē)きよげにしたてて見(jiàn)にゆく。左衞門(mén)の陣などに、殿上人あまた立ちなどして、舎人の弓ども取りて、馬ども驚かして笑ふを、僅に見(jiàn)入れたれば、立蔀などの見(jiàn)ゆるに、為殿司、女官などの、行きちがひたるこそをかしけれ。馬のあがり騒ぎたるも恐しく覺(jué)ゆれば、引き入られてよくも見(jiàn)やられず。 十五日は、もちかゆの節(jié)供まゐる。ねたしと思ひたる、ことわりなり。 「ここなる物とり侍らん」などいひ寄り、はしりうちて逃ぐれば、あるかぎり笑ふ。また互に打ちて、男などをさへぞうつめる。內(nèi)裏わたりなど、やんごとなきも、今日はみ な亂れて、かしこまりなし。雪降りこほりなどしたるに、申文もてありく。老いて頭白きなどが、人にとかく案內(nèi)いひ、女房の局によりて、おのが身のかしこきよしなど、心をやりて説き聞するを、若き人々は眞似をし笑へど、いかでか知らん。 三月三日、うらうらとのどかに照りたる。柳など、いとをかしきこそ更なれ。廣ごりたるはにくし。 おもしろく咲きたる櫻を長(zhǎng)く折りて、大なる花瓶にさしたるこそをかしけれ。そのわたりに、鳥(niǎo)蟲(chóng)のひたひつきいと美しうて飛びありく、いとをかし。木々のこの葉、まだ繁うはなうて、わかやかに青みたるに、霞も霧もへだてぬ空の景色の、何となくそぞろにをかしきに、尐し曇りたる夕つかた、夜など、忍びたる杜 鵑の、遠(yuǎn)うそら耳かと覺(jué)ゆるまで、たどたどしきを聞きつけたらん、何ごこちかはせん。末濃、村濃、卷染など、常よりもをかしう見(jiàn)ゆ。 怪しう踴りて歩く者どもの、さうぞきたてつれば、いみじく、ちやうざといふ法師 などのやうに、ねりさまよふこそをかしけれ。 （三段） ことごとなるもの 法師の詞。下司の詞にはかならず文字あまりしたり。さるは、いとたのもしきわざを、唯木のはしなどのやうに思ひたらんこそ、いといとほしけれ。女などのある所をも、などか忌みたるやうに、さしのぞかずもあらん。まして驗(yàn)者な どのかたは、いと苦しげなり。いたく煩ふ人にかかりて、物怪てうずるも、いと苦しければ、困じてうち眠れば、「ねぶりなどのみして」と咎むるも、いと所狹く、いかに思はんと。今樣はやすげなり。北の門(mén)より女房の車(chē)ども、陣屋の居ねば入りなんやと思ひて、髮つきわろき人も、いたくも つくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、檳榔毛の車(chē)などは、門(mén)ちひさければ、さはりてえ入らねば、例の筵道しきておるるに、いとにくく腹だたしけれど、いかがはせん。 御前に參りて、ありつるやう啓すれば、「ここにも人は見(jiàn)るまじくやは。 「されど、それは皆めなれて侍れば、よくしたてて侍らんにしこそ驚く人も侍らめ。見(jiàn)えば笑はん」などいふ程にしも、「これまゐらせん」とて、御 硯などさしいる。などてかその門(mén)狹く造りて、住み給ひけるぞ」といへば、笑ひて、「家のほど身のほどに合せて侍るなり」と筓ふ。ふるき進(jìn)士などに侍らずば、承り知るべくも侍らざりけり。「その御道もかしこからざめり。よし よし、また仰せかくべき事もぞ侍る、罷り立ち侍らん」とていぬ?！袱ⅳ椁?、車(chē)の入らざりつることいひ侍る」と申しておりぬ。東の對(duì)の西の廂かけてある北の障子には、かけがねもなかりけるを、それも尋ねず。あやしう涸ればみたるものの聲にて、「侍はんにはいかが」と數(shù)多たびいふ聲に、驚きて見(jiàn)れば、兒帳の後に立てたる燈臺(tái)の光もあらはなり。いみじうをかし。 わが傍なる人を起して、「かれ見(jiàn)給へ、かかる見(jiàn)えぬものあめるを」といへば、頭をもたげて見(jiàn)やりて、いみじう笑ふ。あけぬとならば、唯まづ入りねかし。あはれ彼をはしたなく言ひけんこそ、いとほしけれ」と笑はせ給ふ?！笂獙mの御前のものは、例のやうにては惡氣に候はん。 中間なるをりに、「大進(jìn)ものきこえんとあり」と、人の告ぐるを聞し召して、「又なでふこといひて笑はれんとならん」と仰せらるるもいとをかし。一夜のことやいはんと、心ときめきしつれど、「今しづかに御局にさぶらはん」と辭していぬれば、歸り參りたるに、「さて何事ぞ」とのたまはすれば、申しつる事を、さなんとまねび啓して、「わざと消息し、呼び出づべきことにもあらぬを、おのづからしづかに局などにあらんにもいへかし」とて笑へば、「おのが心地に賢しとおもふ人の譽(yù)めたるを、嬉しとや思ふとて、告げ知らするならん」とのたまはする御氣色もいとめでたし。朝餉の間にうへはおはします。貓は御懷に入れさせ給ひて、男ども召せば、藏人忠隆まゐりたるに、「この翁丸打ち調(diào)じて、犬島につかはせ。馬の命婦もさいなみて、「乳母かへてん、いとうしろめたし」と仰せら るれば、かしこまりて、御前にも出でず。 「あはれ、いみじくゆるぎ歩きつるものを?！赣扭韦颏辘?、必むかひさぶらふに、さうざうしくこそあれ」などいひて、三四日になりぬ。 御厠人なるもの走り來(lái)て、 「あないみじ、犬を藏人二人して打ちたまひ、死ぬべし。心うのことや?！钢衣?shí)房なん打つ」といへば、制しに遣るほどに、辛うじてなき止みぬ。 それぞといひ、あらずといひ、口々申せば、「右近ぞ見(jiàn)知りたる、呼べ」とて、下なるを「まづ とみのこと」とて召せば參りたり。