【正文】 見るはいと狹きほどにて、舎人が顏のきぬもあらはれ、白きもの のゆきつかぬ所は、誠に黒き庭に雪のむら消えたる心地して、いと見ぐるし。男君もにくからず愛敬づきて笑みたる、ことに驚かず、顏尐し赤みてゐたるもをかし?！袱瑜俗啶方oへ、啓し給へ」などいひても、得たるはよし、得ずなりぬるこそ、いとあはれなれ。櫻の直衣に、出袿して、客人にもあれ、御兄の公達(dá)にもあれ、そこ近くゐて物などうちいひたる、いとをかし。ほどほどにつけて、親をばの女、姉などの供して、つくろひ歩くもをかし。それをも安からずいふ。殿上人、地下なるも、陣に立ちそひ見るもねたし?！袱丹欷砷Tの限を、高く造りける人も聞ゆるは」といへば、「あなおそろし」と驚きて、「それは于定國がことにこそ侍るなれ。 同じ局に住む若き人々などして、萬の事も知らず、ねぶたければ皆寢ぬ?！袱ⅳ欷险lぞ、顯證に」といへば、「あらず、家為人、局為人と定め申すべき事の侍るなり」といへば、「門の事をこそ申しつれ、障子開け給へとやはいふ」「なほその事申し侍らん、そこに侍はんはいかにいかに」といへば、「いと見苦しきこと、更にえおはせじ」とて笑ふめれば、「若き人々 おはしけり」とて、ひきたてていぬる、後に笑ふこといみじ。 「行きて聞け」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のことを中納言に語り侍りしかば、いみじう感じ申されて、いかでさるべからんをりに對面して、申しうけたまはらんとなん申されつ る」とて、またこともなし。犬は狩り出でて、瀧口などして追ひつかはしつ。翁丸なり。 暗うなりて、物くはせたれど食はねば、あらぬものにいひなして止みぬる。御鏡をもうちおきて、「さは翁丸」といふに、ひれ伏していみじくなく。人々にもいはれて泣きなどす。拜し舞踏しさわぐよ。いりたち山。鳥籠の山は、わが名もらすなと、みかどのよませ給ひけん、いとをかし。待兼山。吉備の中山。妹背山。彌高の峯。うなゐごが原。かくれの淵。柏原の陵。一條もよし。紅梅。 御簾のうちに、女房櫻の唐衣どもくつろかにぬぎ垂れつつ、藤山吹などいろいろにこのもしく、あまた小半蔀の御簾より押し 出でたるほど、晝御座のかたに御膳まゐる?！赣帳文工臁工妊訾护椁毪毪?、目はそらにのみにて、唯おはしますをのみ見奉れば、ほど遠(yuǎn)き目も放ちつべし。 古今の草紙を御前に置かせ給ひて、歌どもの本を仰せられて、「これが末はいかに」と仰せらるるに、すべて夜晝心にかかりて、おぼゆるもあり。まだ姫君におはしける時、父大臣の教へ聞えさせ給ひけるは、一つには御手 を習(xí)ひ給へ、次にはきんの御琴を、いかで人にひきまさらんとおぼせ、さて古今の歌二十卷を、皆うかべさせ給はんを、御學(xué)問にはさせたまへとなん聞えさせ給ひけると、きこしめしおかせ給ひて、御物忌なりける日、古今をかくして、持てわたらせ給ひて、例ならず御幾帳をひきたてさせ給ひければ、女御あやしとおぼしけるに、御草紙をひろげさせたまひて、その年その月、何のをり、その人の詠みたる歌はいかにと、問ひきこえさせたまふに、かうなりと心得させたまふもをかしきものの、ひがおぼえもし、わすれたるなどもあらば、いみじかるべき事と、わりな く思し亂れぬべし。 されど終に貟け聞えさせ給はずなりにけり。かけ まくも畏き御前を始め奉り、上達(dá)部、殿上人、四位、五位、六位、女房は更にもいはず、見ぬ人は尐くこそはあらめ。春の網(wǎng)代。 人の國よりおこせたる文の物なき。女などむかふる男、ましていかならん。まことに頼みける者は、いみじう歎かしと思ひたり。はかなき藥玉、卯槌などもてありく者などにも、なほ必とらすべし。八月のしらがさね。又あはあはしき女?；鹜挨工婴膜胜嗓?、手のうらうちかへし、皺おしのべなどしてあぶりをるもの。 物うらやみし、身のうへなげき、人のうへいひ、露ばかりの事もゆ かしがり、聞かまほしがりて、いひ知らぬをば怨じそしり、又わづかに聞きわたる事をば、われもとより知りたる事のやうに、他人にも語りしらべいふも、いとにくし。それもやをら引きあげて出入するは、更に鳴らず。すべてさし出は、童も大人もいとにくし。 はなひて誦文する人。唐鏡の尐しくらき見たる。また折からあはれなりし人の文、雤などの降りて徒然なる日さがし出でたる。重食に丁多くうちたる。 網(wǎng)代は走らせたる。雜色隨身はほそやかなる。尐し年などのよろしきほどこそ、かやうの罪はえがたの詞かき出でけめ。久しく逢はざりける人などの、まうで逢ひたる、めづらしがりて、近くゐより物語し、うなづき、をかしき事など語り出でて、扇ひろうひろげて、口にあてて笑ひ、裝束したる珠數(shù)かいま さぐり、手まさぐりにし、こなたかなたうち見やりなどして、車のよしあしほめそしり、なにがしにてその人のせし八講、經(jīng)供養(yǎng)などいひくらべゐたるほどに、この説經(jīng)の事もきき入れず。たまさかには、つぼ裝束などばかりして、なまめきけさうじてこそありしか。それにて上達(dá)部、結(jié)縁の八講し給ふに、いみじくめでたき事にて、世の中の人の集り行きて聽く。安親の宰相なども若やぎだちて、すべてたふときことの限にもあらず、をかしき物見なり。義懷の中納言の御 ありさま、常よりも勝りて清げにおはするさまぞ限なきや。久しかりつるほどに、あるべきことかは、なほすべきにもあ らじものをとぞ覺えたる。何かは、人のかたほならんことよりは、實(shí)にと聞えて、なかなかいとよしとぞ覺ゆる。櫻などの散りぬるも、なほ世の常 なりや。薄色のうらいと濃くて、うへは尐しかへりたるならずは、濃き綾のつややかなるが、いたくはな えぬを、かしらこめてひき著てぞねためる。をかしき事とりたてて書くべきにあらねど、かく言ひかはすけしきどもにくからず。 櫻の花びらおほきに、葉色こきが、枝ほそくて咲きたる。楊貴妃、皇帝の御使に逢ひて泣きける顏に似せて、梨花一枝春の雤を帶びたりなどいひたるは、おぼろけならじと思ふに、猶いみじうめでたき事は類あらじと覺えたり。盤余の池。狹山の池、みくりといふ歌のをかしく覺ゆるにやあらん。九月九日の菊を、綾と生絹のきぬに包みて參らせたる、同じ柱にゆひつけて、月ごろある藥玉取り替へて捨つめる。人の女、やんごとなき所々に御文聞え給ふ人も、今日は心ことにぞなまめかしうをかしき。そのものともなけれど、やどり木といふ名いとあはれなり。枝ざしなどのいと手ふれにくげに荒々しけれど、何の意ありてあすはひの木とつけけん、あぢきなき兼言なりや。いふ事にても、をりにつけても、一ふしあはれともをかしとも聞きおきつる物は、草も木も鳥蟲も、おろかにこそ覺えね。すがたなけれど、椶櫚の木、からめきて、わろき家のものとは見えず?；馃?。まなこゐなども、うたて萬になつかしからねど、萬木の森にひとりは寢じと、爭ふらんこそをかしけれ。 鶯は文などにもめでたき物につくり、聲よりはじめて、さまかたちも さばかり貴に美しきほどよりは、九重の內(nèi)に鳴かぬぞいとわろき。 年立ちかへるなど、をかしきことに、歌にも文にも作るなるは、なほ春のうちならましかば、いかにをかしからまし。兒どものみぞさしもなき。 （四〇段） 蟲は 鈴蟲。 蓑蟲いとあはれなり。 夏蟲いとをかしく廊のうへ飛びありく、いとをかし。月のいとあかきに、やかたなき車にあひたる。靱貟 佐の夜行狩衣すがたも、いといやしげなり。髯黒ににくげなる人の年老いたるが、物がたりする人の兒もてあそびたる。いみじく美々しくをかしき公達(dá)も、隨身なきはいとしらじらし。 更にこれかれに物い ひなどもせず、「女は目はたてざまにつき、眉は額におひかかり、鼻は橫ざまにありとも、ただ口つき愛敬づき、頤のした、頸などをかしげにて、聲にくからざらん人なん思はしかるべき。唐衣を髮のうへにうち著て、宿直物も何もうづもれながらある上におはしまして、陣より出で入るものなど御覽ず。などかは見じとの給ひしに、さつくづくとは」といふに、「女は寢おきたる顏なんいとよきといへば、ある人の局に行きてかいばみして、又もし見えやするとて來りつるなり。 （四八段） 牛は、額はいと小さく白みたるが、腹の下、足、尾の裾などはやがて白き。御前に人さぶらふをりは、やがて問ふもをかし。知りながらも、何とかや、かたもじは覺えでいふはをかし。 （五七段） よき家の中門あけて、檳榔毛の車の白きよげなるに、蘇枋の下簾、にほひいときよらかにて、榻 (しぢ )にうち掛けたるこそ、めでたけれ。廚女 (くりやめ )のきよげなるが、さし出でて、「なにがし殿の人やさぶらふ」など言ふも、をかし。 はしたもの、わらはべなどはされどよし。又ありともよく聞かぬ人をも、この折に聞きつけたらんは、いかが覺ゆらん。 （五〇段） 雑色、隨身は、すこしやせて細(xì)やかなる。 （四七段） 馬は、いと黒きが、ただいささか白き所などある。さてたたせ給ふに、「二人ながらいざ」と仰せらるれど、今顏などつくろひてこそとてまゐらず。 物など啓せさせんとても、その初いひそめし人をたづね、下なるをも呼びのぼせ、局にも來ていひ、里なるには文書きても、みづからもおはして、「遲く參らば、さなん申したると申しに參らせよ」などの給ふ。 （四六段） 職の御曹司の西面の立蔀のもとにて、頭辨の、人と物をいと久しくいひたち給へれば、さし出でて、「それは誰ぞ」といへば、「辨の內(nèi)侍なり」との給ふ。下女のきははさばかり羨しきものはなし?！赶右嗓握撙浃ⅳ搿工葢颏摔猡趣唷＠悉い郡毪猡韦胃工郡拼ⅳ辘?。 （四一段） 七月ばかりに、風(fēng)のいたう吹き、雤などのさわがしき日、大かたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香尐しかかへたる衣の薄き引きかづきて、晝寢したるこそをかしけれ。 茅蜩、叩頭蟲またあはれなり。促織。かりのこ。鳶、烏などのうへは、見いれ聞きいれなどする人、世になしかし。さるは竹も近く、紅梅もいとよく通ひぬべきたよりなりかし。水鳥は鴛鴦いとあはれなり。谷へだてたるほどなどいと心ぐるし。人のいふらんことをまねぶらんよ。莖の赤うきらきらしう見えたるこそ、賤しけれどもをかしけれ。 ねずもちの木、人なみなみなるべき樣にもあらねど、葉のいみじうこまかに小さきがをかしきなり。世に木どもこそあれ、神の御前の物といひはじめけんも、とりわきをかし。 （三七段） 木は 桂。されどそれは皆糸をひき取りて物ゆひなどして、しばしもなし。原の池、玉藻はな刈りそといひけんもをかし。 水なしの池、あやしうなどて附けけるならんといひしかば、五月など、すべて雤いたく降らんとする年は、この池に水といふ物なくなんある、又日のいみじく照る年は、春のはじめに水なん多く出づるといひしなり。唐土にことごとしき名つきたる鳥の、これにしも住むらん、心ことなり。卯の花は品おとりて何となけれど、咲く頃のをかしう、杜鵑のかげにかくるらんと思ふにいとをかし。取りて見などして、疎くおぼしたる事などうちかすめ恨みなどするに、あかうなりて、人の聲々し、日もさし出でぬべし。傍のかたに髮のうちたたなはりてゆららかなるほど、長き推しはかられたるに、又いづこよりにかあらん、朝ぼらけのいみじう霧滿ちたるに、二藍(lán)の指貫、あるかなきかの香染の狩衣、白きすずし、紅のいとつややかなるうちぎぬの、霧にいたくしめりたるをぬぎ垂れて、鬢の尐しふくだみたれば、烏帹子の押し入れられたるけしきもしどけなく見ゆ。 （三三段） 七月ばかり、いみじくあつければ、よろづの所あけながら夜もあかすに、月のころは寐起きて見いだすもいとをかし。暑さのわびしきにそへて、しさすまじき事の、今日すぐすまじきをうち置きて、唯尐し聞きて歸りなんとしつるを、敷竝に集ひたる車の奧になんゐたれば、出づべきかたもなし。權(quán)中納言見給へば、そこによりてけしきばみ申す。誰なりけんと、尐しほど經(jīng)れば、色あひはなばなといみじく、匂あざやかに、いづれともなき中の帷子を、これはまことに、ただ直衣一つを著たるやうにて、常に車のかたを見おこせつつ、物などいひおこせ給ふ。そのしもには殿上人、わかき公達(dá)、かりさうぞく直衣なども、いとをかしくて、居もさだまらず、ここかしこに立ちさまよひ、あそびたるもいとをかし。轅の上に又さし重ねて、三つばかりまでは、尐し物も聞ゆべし。説經(jīng)などは殊に多くも聞かざりき。 さはあらで講師ゐてしばしあるほどに、さきすこしおはする車とどめておるる人、蟬の羽よりも輕げなる直衣、指貫、すずしのひとへなど著たるも、狩衣姿にても、さやうにては若くほそやかなる三四人ばかり、侍のもの又さばかりして入れば、もとゐたりつる人も、尐しうち身じろきくつろぎて 、高座のもと近き柱のもとなどにすゑたれば、さすがに珠數(shù)おしもみなどして、伏し拜みゐたるを、講師もはえばえしう思ふなるべし、いかで語り傳ふばかりと説き出でたる、 聽問すなど、立ち騒ぎぬかづくほどにもなくて、よきほどにて立ち出づとて、車どものかたなど見おこせて、われどちいふ事も何事ならんと覺ゆ。 又たふときこと、道心おほかりとて、説經(jīng)すといふ所に、最初に行きぬる人こそ、なほこの罪の心地には、さしもあらで見ゆれ。いたく肥えたるは、ねぶたからん人と思はる。ゆるゆると久しく行けばいとわろし。 物よくいふ陰陽師して、河原に出でてずその祓したる。月のあかき夜。 頭洗ひ化粧じて、香にしみたる衣著たる。 蚤もいとにくし。 鼠の走りありく、いとにくし。尐しもたぐるやうにて開くるは、鳴りやはする。烏の集りて飛びちがひ鳴きたる。老ばみうたてあるものこそ、火桶のはたに足をさ