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挪威的森林中日雙語-文庫吧資料

2024-11-11 00:53本頁面
  

【正文】 説明はもちろん彼を納得させられなかった?!该褡鍖Wだって東洋史だってなんだって良かったんだ。僕はとても悪いことをしてしまったような気がした。 挪威的森林 2020425 17 その答は彼を混亂させた。 「でもとにかくそういうのが好きなんだね?」と彼は言った。僕だって殆んど聞いたことはない。戯曲を読んだりしてさ、研究するわけさ。 「演劇」と僕は答えた。彼は場合によってどもったりどもらなかったりしたが、「地図」という言葉が出てくると百パーセント確実にどもった。たしかに地図づくりに興味を抱き熱意を持った人間が少しくらいいないことには――あまりいっぱいいる必要もないだろうけ れど――それは困ったことになってしまう。 「うん、大學を出たら國土地理院に入ってさ、ち、ち、地図作るんだ」 なるほど世の中にはいろんな希望があり人生の目的があるんだなと僕はあらためて感心した。 「僕はね、ち、ち、地図の勉強してるんだよ」と最初に會ったとき、彼は僕にそう言った。困るのは蟲が一匹でもいると部屋の中に殺蟲スプレーをまきちらすことで、そういうとき僕は隣室のカオスの中に退避せざるを得なかった。掃除は全部彼がやってくれたし、布団も彼が干してくれたし、ゴミも彼がかたづけてくれた。 みんなは突撃隊と同室になっていることで僕に同情してくれたが、僕自身はそれほ ど嫌な思いをしたわけではなかった。冗談のつもりで言ったのだが、みんなあっさりとそれを信じてしまった。僕の部屋に遊びに來た人間はみんなその運河の寫真を見て「なんだ、これ?」と言った。僕がヌード寫真を貼ると「ねえ、ワタナベ君さ、ぼ、ぼくはこういうのあまり好きじゃないんだよ」と言ってそれを はがし、かわりに運河の寫真を貼ったのだ。 僕の部屋にはピンナップさえ貼られてはいなかった。「あれ異常性格だよ」と彼らは言った。カーテンはときどき洗うものだということを誰も知らなかったのだ。偶の同居人が病的なまでに清潔好きだったからだ。 でもそれに比べると僕の部屋は死體安置所のように消潔だった。みんな洗 濯物をどんどんベッドの下に放りこんでおくし、定期的に布団を干す人間なんていないから布団はたっぷりと汗を吸いこんで救いがたい匂いを放っている。部屋によってその匂いは少しずつ違っているが、匂いを構成するものはまったく同じである。風が吹くと床からほこりがも挪威的森林 2020425 15 うもうと舞いあがる。食器はどれも黒ずんでいるし、いろんなところにわけのわからないものがこびりついているし、床にはインスタント?ラーメンのセロファン?ラップやらビールの空瓶やら何かのふたやら何やかやが散亂している。 男ばかりの部屋だから大體はおそろしく汚ない。中には冗談で豚の交尾の寫真を貼っているものもいたが、そういうのは例外中の例外で、殆んど部屋の壁に貼ってあるのは裸の女か若い女性歌手か女優(yōu)の寫真だった。大抵の部屋の棚にはトランジスタ?ラジオとヘア?ドライヤーと電気ポットと電熱器とインスタント?コーヒーとティー?バッグと角砂糖とインスタント?ラーメンを作るための鍋と簡単な食器がいくつか並んでいる。機とベッドの他にはロッカーがふたつ、小さなコーヒー?テーブルがひとつ、それに作りつけの棚があった。入口の左手に鉄製の二段ベッドがある。 寮の部屋割は原則として一、二年生が二人部屋、三、四年生が一人部屋ということになっていた。気にするのは僕くらいのものなのだろう。でもそんなのは本當はそれほどたいしたことではないのかもしれない。夜のあいだだってちゃんと國家は存続しているし、働いている人だって沢山いる。夜には國旗は翻らない。ただし順序は朝とはまったく逆になる。 空が晴れてうまく風が吹いていれば、これはなかなかの光景である。 「さざれ石のお――」というあたりで旗はポールのまん中あたり、「まあで――」というところで頂上にのぼりつめる。 君が代。中野學校がローブに旗をつける。箱の中にはきちんと折り畳まれた國旗が入っている。中野學校がテープレコーダーを掲揚臺の足もとに置く。學生服は桐の薄い箱を持っている。朝の六時、ラジオの時報が鳴るのと殆んど同時に二人は中庭に姿を見せる。この不気味きわまりない二人組が毎朝六時に寮の中庭に日の丸をあげるわけだ。そうとしか考えようがない。本當に學生なのかどうかさえわからない。名前も知らないし、どの部屋に住んでいるのかもわからない。この學生のことは誰もよく知らない。この人物は陸軍中野學校の出身という話だったが、これも真?zhèn)韦韦郅嗓悉铯椁胜?。背が高くて目つきの鋭い六十前後の男だ。國旗掲揚臺は中庭のまん中にあってどの寮棟の窓からも見えるようになっている。 寮の一日は荘厳な國旗掲揚とともに始まる。どうしてそんなうさん臭いところに二年もいたのだと訊かれても答えようがない。そんな説のいったいどれが正しくてどれが間違っているのか僕には判斷できないが、それらの説は「とにかくここはうさん臭いんだ」という點で共通していた。彼の説によればこの寮の出身者で政財界に 地下の閥を作ろうというのが設立者の目的なのだということであった。ただの稅金対策だと言うものもいるし、売名行為だと言うものもいるし、寮設立という名目でこの一等地を詐欺同然のやりくちで手に入れたんだと言うものもいる?!附逃胃鶐证蚋Fめ國家にとって有為な人材の育成につとめる」、これがこの寮創(chuàng)設の精神であり、そしてその精神に賛同した多くの財界人が私財を投じ……というのが表向きの顔なのだが、その裏のことは例によって曖昧模糊としている。寮はあるきわめて右翼的な人物を中心とする正體不明の財団法人によって運営されており、その運営方針は――もちろん僕の目から見ればということだが――かなり奇妙に歪んだものだった。至れり盡挪威的森林 2020425 12 せりだ。中庭は広く、緑の芝生の中ではスプリンクラーが太陽の光を反射させながらぐるぐると回っている。本部建物 のとなりには三つめの寮棟がある。 舗道をまっすぐ行った正面には二階建ての本部建物がある。開け放しになった窓からはラジオの音が聴こえる。窓の沢山ついた大きな建物で、アパートを改造した刑務所かあるいは刑務所を改造したアパートみたいな印象を見るものに與える。 コンクリートの舗道はそのけやきの巨木を迂回するように曲り、それから再び長い直線となって中庭を橫切っている。樹齢は少くとも百五十年ということだった。敶地は広く、まわりを高いコンクリートの塀に囲まれていた。それに僕も結局は住むところなんてどこだっていいやと思っていたのだ。なにしろ布団と電気スタンドさえあればあとは何ひとつ買い揃える必要がないのだ。もちろん費用のこともあった。東京のことなんて何ひとつ知らなかったし、一人ぐらしをするのも初めてだったので、親が心配してその寮をみつけてきてくれた。 挪威的森林 2020425 11 第二章 昔々、といってもせいぜい二十年ぐらい前のことなのだけれど、僕はある學生寮に住んでいた。 そう考えると僕はたまらなく哀しい?!杆饯韦长趣颏い膜蓼扦馔欷胜い?。僕の中で彼女に関する記憶がいつか薄らいでいくであろうということを。何故彼女が僕に向って「私を忘れ ないで」と頼んだのか、その理由も今の僕にはわかる。結局のところ―と僕は思う―文章という不完全な容器に盛ることができるのは不完全な記憶や不完全な想いでしかないのだ。あまりにも克明な地図が、克明にすぎて時として役に立たないのと同じことだ。その最初の一行さえ出てくれば、あとは何もかもすらすらと書いてしまえるだろうということはよくわかっていたのだけれど、その一行がどうしても出てこなかったのだ。 もっと昔、僕がまだ若く、その記憶がずっと鮮明だったころ、僕は直子について書いてみようと試みたことが何度かある。既に薄らいでしまい、そして今も刻一刻と薄らいでいくその不完全な記憶をしっかりと胸に抱きかかえ、骨でもしゃぶるような気持で僕はこの文章を書きつづけている。僕の體の中に記憶の辺土とでも呼ぶべき暗い場所があって、大事な記憶は全部そこにつもってやわらかい泥と化してしまっているのではあるまいか、と。こぅして記憶を辿りながら文章を書いていると、僕はときどきひどく不安な気持になってしまう。 「いつまでも忘れないさ」と僕は言った。そして我々は殘りの道を二人で並んで歩いた。そのへんに井戸があるかもしれないよ」と僕は彼女の背中に聲をかけた。僕はその二、三歩あとをついて歩いた。また犬の聲が聞こえたが、それは前よりいくぶん我々の方に近づいているように思えた。 彼女はそのまま何も言わずに先に立って歩きはじめた。「もうひとつは?」 「私のことを覚えていてほしいの。とても嬉しいし、とても――救われるのよ。ふたつで十分。 「じゃあ私のおねがいをふたつ聞いてくれる?」 「みっつ聞くよ」 直子は笑って首を振った。直子は上著のポケットに両手をつっこんで何を見るともなくじっと考えごとをしていた?!竷Wは頭の良い人間じゃないし、物事を理解するのに時間がかかる。本當にごめんなさい?!袱ⅳ胜郡騻膜堡毪膜猡辘悉胜盲郡巍? 「ごめんなさい」と直子は言って僕の腕をやさしく握った。道の上には夏の終りに死んだ蟬の死骸がからからに乾いてちらばっていて、それが靴の下でばりばりという音を立てた。 「私はあなたが考えているよりずっと深く混亂しているのよ。私はバラバラになっ て――どこかに吹きとばされてしまうのよ。私は昔からこういう風にしてしか生きてこなかったし、今でもそういう風にしてしか生きていけないのよ。そんなこと言ってもらったって何の役にも立たないのよ。 「どうしてよ?」と直子はじっと足もとの地面を見つめながら言った。肩のカを抜けばもっと體が軽くなるよ」 「どうしてそんなこと言うの?」と直子はおそろし く乾いた聲で言った。そうだろ?どうしてそんなに固く物事を考えるんだよ?ねえ、もっと肩のカを抜きなよ。僕らは収支決算表を睨んで生きているわけじゃない。これからどうしようかってね?!袱い膜Kる。私そんなの嫌よ。そんなの人間関係とも呼べないでしょう? そしてあなたはいつか私にうんざりするのよ。あなたは會社につとめるわね。 「だって誰かが誰かをずっと永遠に守りつづけるなんて、そんなこと不可能だからよ。 「それは――正しくないことだからよ、あなたにとっても私にとっても」とずいぶんあとで彼女はそうつづけた。それは――」と言いかけて直子はふと口をつぐみ、そのまま歩きつづけた?!袱扦猡饯欷悉扦胜い韦琛? 「どうして?」 「それはいけないことだからよ。 挪威的森林 2020425 7 「あなたがそう言ってくれて私とても嬉しいの。 「ありがとう」と直子は言った。それから彼女は背のびをして僕の頬にそっと頬をつけた。彼女の瞳の奧の方ではまっ黒な重い液體が不思議な図形の渦を描いていた。僕も立ちどまった。ずっとこうしてりゃいいんじゃないか」と僕は言った。たとえば今こうしてあなたにしっかりとくっついているとね、私ちっとも怖くないの?!袱饯问证韦长趣盲扑饯摔悉工搐瑜铯毪巍¥郡坤铯毪巍怪弊婴蟽Wの手をしっかりと握 ったままそう言った。あなたは暗闇に盲滅法にこのへんを歩きまわったって絶対に井戸には落ちないの。「でも大丈夫よ、あなたは?!刚lかが見つけて囲いを作るべきだ挪威的森林 2020425 6 よ」 「でも誰にもその井戸を見つけることはできないの。そして上の方には光の円がまるで冬の月みたいに小さく小さく浮かんでいるの?!袱饯韦蓼奘驻喂扦扦庹郅盲?あっさり死んじゃえばいいけれど、何かの加減で足をくじくくらいですんじゃったらどうしようもないわね。そうするとこのへんの人は言うの、あれは野井戸に落っこちたんだって」 「あまり良い死に方じゃなさそうだね」と僕は言った。二年か三年に一度くらいかな。 落っこっちゃったらどうしようもないじゃない か」 「どうしようもないでしょうね。 「でもそれじゃ危くってしようが
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