【正文】 たので、僕も口をはさまずにそのとなりを黙って歩いた。本當(dāng)よ」と彼女は哀しそうに微笑しながら言った。それは一瞬胸がつまってしまうくらいあたたかくて素敵な仕草だった。彼女は両手を僕の肩にあてて正面から、僕の目をじっとのぞきこ んだ。どんな悪いものも暗いものも私を誘おうとはしないのよ」 「じゃあ話は簡単だ。そしてしばらく黙って歩きつづけた。あなたは何も心配することはないの。そんなところで一人ぼっちでじわじわと死んでいくの」 「考えただけで身の毛がよだつた」と僕が言った。 「ひどい死に方よ」と彼女は言って、上著についた草の穂を手う払って落とした。ひゅうううう、ボン、それでおしまいだもの」 「そういうのは実際には起こらないの？」 「ときどき起こるの。このへんの何処かにあることは確かなんだけれど」 彼女はそう言うとツイードの上著のポケットに両手をつっこんだまま僕の顔を見て本當(dāng)よという風(fēng)ににっこりと微笑んだ。彼女はときどきそんな話し方をした。僕に唯一わかるのはそれがとにかくおそろしく深いということだけだ。ただその穴が口を開けているだけである。僕はその井戸の様子を細(xì)かく描寫することだってできる。そんな井戸が本當(dāng)に存在したのかどうか、僕にはわからない。起きろ、理解しろ、と。蹴とばすたびにうつろな音がするだけだ。そしてその風(fēng)景は僕の頭のある部分を執(zhí)拗に蹴りつづけている。そしておそらくやがては夕闇の中に吸いこまれてしまうことになるのだろう。そして年月がたつにつれてそれに要する時間はだんだん長くなってくる。だから僕が最初に思いだすのはいつも彼女の橫顔なのだ。 もちろん時間さえかければ僕は彼女の顔を思いだすことができる。どうしてこんなことが起りうるんだろう、と。しかしその風(fēng)景の中には人の姿は見えない。 でも今では僕の脳裏に最初に浮かぶのはその草原の風(fēng)景だ。僕は僕自身のことを考え、そのときとなりを並んで歩いていた一人の美しい女のことを考え、僕と彼女とのことを考え、そしてまた僕自身のことを考えた。 記憶というのはなんだか不思議なものだ。どんな物音も我々の耳には屆かなかった。風(fēng)は草原をわたり、彼女の髪をかすかに揺らせて雑木林に抜けていった。さようなら）」 「 Auf Wiedersehen！」と僕も言った。ちょっと哀しくなっただけだから（ It‘ s all right now. Thank you. I only felt lonely， you know.）」と僕は言って微笑んだ。僕は草の匂いをかぎ、肌に風(fēng)を感じ、鳥の聲を聴いた。スチュワーデスはにっこりと笑って行ってしまい、音楽はビリー？ジョエルの曲に変った。 僕は頭がはりさけてしまわないように身をかがめて両手で顔を覆い、そのままじっとしていた。 飛行機(jī)が著地を完了すると禁煙のサインが消え、天井のスピーカーから小さな音でBGM が流れはじめた。 第一章 僕は三十七歳で、そのときボーイング 747 のシートに座っていた。挪威的森林 2020425 1 挪威的森林（中日對照） 內(nèi)容簡介： 漢堡機(jī)場一曲憂郁的《挪威的森林》，復(fù)蘇了主人公渡邊傷感的二十歲記憶：嫻靜靦腆、多愁善感的直子，是他動情傾心的女孩，那纏綿的病況、如水的柔情，甚至在她花蝕香銷之后，仍令他無時忘懷；神采飛揚(yáng)、野性未脫的綠子，是他邂逅相遇的情人，那迷人的活力、大膽的表白，即使是他山盟已訂時，也覺得她難以抗拒。その巨大な飛行機(jī)はぶ厚い雨雲(yún)をくぐり抜けて降下し、ハンブルク空港に著陸しようとしているところだった。それはどこかのオーケストラが甘く演奏するビートルズの 「ノルウ ェイの森」だった。やがてドイツ人のスチュワーデスがやってきて、気分がわるいのかと英語で訊いた。僕 は顔を上げて北海の上空に浮かんだ暗い雲(yún)を眺め、自分がこれまでの人生の過程で失ってきた多くのもののことを考えた。それは一九六九年の秋で、僕はもうすぐ二十歳になろうとしていた。 「 Well， I feel same way， same thing， once in a while. I know what you mean.（そういうこと私にもときどきありますよ。 十八年という歳月が過ぎ去ってしまった今でも、僕はあの草原の風(fēng)景をはっきりと思いだすことができる。梢の葉がさらさらと音を立て、遠(yuǎn)くの方で犬の鳴く聲が聞こえた。誰一人ともすれ違わなかった。 その中に実際に身を置いていたとき、僕は挪威的森林 2020425 3 そんな風(fēng)景に殆んど注意なんて払わなかった。それは何を見ても何を感じても何を考えても、結(jié)局すべてはブーメランのように自分自身の手もとに戻ってくると いう年代だったのだ。草の匂い、かすかな冷やかさを含んだ風(fēng)、山の稜線、犬の鳴く聲、そんなものがまず最初に浮かびあがってくる。誰もいない。あれほど大事そうに見えたものは、彼女やそのときの僕や僕の世界は、みんなどこに行ってしまったんだろう、と。小さな冷たい手や、さらりとした手ざわりのまっすぐなきれいな髪や、やわらかな丸い形の耳たぶやそのすぐ下にある小さなホクロや、冬になるとよく 著ていた上品なキャメルのコートや、いつも相手の目をじっとのぞきこみながら質(zhì)問する癖や、ときどき何かの加減で震え気味になる聲（まるで強(qiáng)風(fēng)の吹く丘の上でしゃべっているみたいだった）や、そんなイメージをひとつひとつ積みかさねていくと、ふっと自然に彼女の顔が浮かびあがってくる。それから彼女は僕の方を向き、にっこりと笑い、少し首をかしげ、話しかけ、僕の目をのぞきこむ。哀しいことではあるけれど、それは真実なのだ。そう、僕の記憶は直子の立っていた場所から確実に遠(yuǎn)ざかりつつあるのだ。おい、起きろ、俺はまだここにいるんだぞ、起きろ、起きて理解しろ、どうして俺がまだここにいるのかというその理由を。そしてその音さえもたぷんいつかは消えてしまうのだろう。だからこそ僕はこの文章を書いている。あるいはそれは彼女の中にしか存在しないイメージなり記號であったのかもしれない ――あの暗い日々に彼女がその頭の中で紡ぎだした他の數(shù)多くの事物と同じように。井戸は草原が終って雑木林が始まるそのちょうど境い目あたりにある?？F石は風(fēng)雨にさらされて奇妙な白濁色に変色し、ところどころでひび割れて崩れおちている。見當(dāng)もつかないくらい深いのだ。正確な言葉を探し求めながらとてもゆっくりと話すのだ。 「でもそれじゃ危くってしようがないだろう」と僕は言った。二年か三年に一度くらいかな?！袱饯韦蓼奘驻喂扦扦庹郅盲?あっさり死んじゃえばいいけれど、何かの加減で足をくじくくらいですんじゃったらどうしようもないわね?！刚lかが見つけて囲いを作るべきだ挪威的森林 2020425 6 よ」 「でも誰にもその井戸を見つけることはできないの。あなたは暗闇に盲滅法にこのへんを歩きまわったって絶対に井戸には落ちないの?！袱饯问证韦长趣盲扑饯摔悉工搐瑜铯毪?。ずっとこうしてりゃいいんじゃないか」と僕は言った。彼女の瞳の奧の方ではまっ黒な重い液體が不思議な図形の渦を描いていた。 「ありがとう」と直子は言った。「でもそれはできないのよ」 「どうして？」 「それはいけないことだからよ。 「それは――正しくないことだからよ、あなたにとっても私にとっても」とずいぶんあとで彼女はそうつづけた。あなたは會社につとめるわね。私そんなの嫌よ。これからどうしようかってね。そうだろ？どうしてそんなに固く物事を考えるんだよ？ねえ、もっと肩のカを抜きなよ。 「どうしてよ？」と直子はじっと足もとの地面を見つめながら言った。私は昔からこういう風(fēng)にしてしか生きてこなかったし、今でもそういう風(fēng)にしてしか生きていけないのよ。 「私はあなたが考えているよりずっと深く混亂しているのよ。 「ごめんなさい」と直子は言って僕の腕をやさしく握った。本當(dāng)にごめんなさい。直子は上著のポケットに両手をつっこんで何を見るともなくじっと考えごとをしていた。ふたつで十分?！袱猡Δ窑趣膜?？」 「私のことを覚えていてほしいの。また犬の聲が聞こえたが、それは前よりいくぶん我々の方に近づいているように思えた。そのへんに井戸があるかもしれないよ」と僕は彼女の背中に聲をかけた。 「いつまでも忘れないさ」と僕は言った。僕の體の中に記憶の辺土とでも呼ぶべき暗い場所があって、大事な記憶は全部そこにつもってやわらかい泥と化してしまっているのではあるまいか、と。 もっと昔、僕がまだ若く、その記憶がずっと鮮明だったころ、僕は直子について書いてみようと試みたことが何度かある。あまりにも克明な地図が、克明にすぎて時として役に立たないのと同じことだ。何故彼女が僕に向って「私を忘れ ないで」と頼んだのか、その理由も今の僕にはわかる。「私のことをいつまでも忘れないで。 挪威的森林 2020425 11 第二章 昔々、といってもせいぜい二十年ぐらい前のことなのだけれど、僕はある學(xué)生寮に住んでいた。もちろん費(fèi)用のこともあった。それに僕も結(jié)局は住むところなんてどこだっていいやと思っていたのだ。樹齢は少くとも百五十年ということだった。窓の沢山ついた大きな建物で、アパートを改造した刑務(wù)所かあるいは刑務(wù)所を改造したアパートみたいな印象を見るものに與える。 舗道をまっすぐ行った正面には二階建ての本部建物がある。中庭は広く、緑の芝生の中ではスプリンクラーが太陽の光を反射させながらぐるぐると回っている。寮はあるきわめて右翼的な人物を中心とする正體不明の財団法人によって運(yùn)営されており、その運(yùn)営方針は――もちろん僕の目から見ればということだが――かなり奇妙に歪んだものだった。ただの稅金対策だと言うものもいるし、売名行為だと言うものもいるし、寮設(shè)立という名目でこの一等地を詐欺同然のやりくちで手に入れたんだと言うものもいる。そんな説のいったいどれが正しくてどれが間違っているのか僕には判斷できないが、それらの説は「とにかくここはうさん臭いんだ」という點(diǎn)で共通していた。 寮の一日は荘厳な國旗掲揚(yáng)とともに始まる。背が高くて目つきの鋭い六十前後の男だ。この學(xué)生のことは誰もよく知らない。本當(dāng)に學(xué)生なのかどうかさえわからない。この不気味きわまりない二人組が毎朝六時に寮の中庭に日の丸をあげるわけだ。學(xué)生服は桐の薄い箱を持っている。箱の中にはきちんと折り畳まれた國旗が入っている。 君が代。 空が晴れてうまく風(fēng)が吹いていれば、これはなかなかの光景である。夜には國旗は翻らない。でもそんなのは本當(dāng)はそれほどたいしたことではないのかもしれない。 寮の部屋割は原則として一、二年生が二人部屋、三、四年生が一人部屋ということになっていた。機(jī)とベッドの他にはロッカーがふたつ、小さなコーヒー？テーブルがひとつ、それに作りつけの棚があった。中には冗談で豚の交尾の寫真を貼っているものもいたが、そういうのは例外中の例外で、殆んど部屋の壁に貼ってあるのは裸の女か若い女性歌手か女優(yōu)の寫真だった。食器はどれも黒ずんでいるし、いろんなところにわけのわからないものがこびりついているし、床にはインスタント？ラーメンのセロファン？ラップやらビールの空瓶やら何かのふたやら何やかやが散亂している。部屋によってその匂いは少しずつ違っているが、匂いを構(gòu)成するものはまったく同じである。 でもそれに比べると僕の部屋は死體安置所のように消潔だった。カーテンはときどき洗うものだということを誰も知らなかったのだ。 僕の部屋にはピンナップさえ貼られてはいなかった。僕の部屋に遊びに來た人間はみんなその運(yùn)河の寫真を見て「なんだ、これ？」と言った。 みんなは突撃隊(duì)と同室になっていることで僕に同情してくれたが、僕自身はそれほ ど嫌な思いをしたわけではなかった。困るのは蟲が一匹でもいると部屋の中に殺蟲スプレーをまきちらすことで、そういうとき僕は隣室のカオスの中に退避せざるを得なかった。 「うん、大學(xué)を出たら國土地理院に入ってさ、ち、ち、地図作るんだ」 なるほど世の中にはいろんな希望があり人生の目的があるんだなと僕はあらためて感心した。彼は場合によってどもったりどもらなかったりしたが、「地図」という言葉が出てくると百パーセント確実にどもった。戯曲を読んだりしてさ、研究するわけさ。 「でもとにかくそういうのが好きなんだね？」と彼は言った。僕はとても悪いことをしてしまったような気がした。それだけ」しか