【正文】 色をした桜の葉が風(fēng)に揺れ、太陽(yáng)の光をきらきらと反射させていた。五月の半ばの日曜日の午後だった。彼女の笑顔を見(jiàn)るのは――それはほんの一瞬のうちに消えてしまったのだけれど― ―本當(dāng)に久しぶりだった。 * 僕が突撃隊(duì)と彼のラジオ體操の話をすると、直子はくすくすと笑った。僕が言葉を失って空しくベッドに腰かけていると彼はにこにこしながら僕を慰めてくれた。いったい何が言えるだろう？いちばんてっとり早いのはそのいまいましいラジオを彼のいないあいだに窓から放りだしてしまうことだったが、そんなことをしたら地獄のふたをあけた ような騒ぎがもちあがるのは目に見(jiàn)えていた。十年も毎日毎日やってるからさ、やり始めると、む、無(wú)意識(shí)に全部やっちゃうんだ。跳躍のところだけをやめて僕をぐっすり眠らせてくれないかな」 「駄目だよ」と彼は実にあっさりと言った?！袱饯长尾糠证坤堡蚨苏郅盲皮郅筏い螭?よ。たしかにあるな。もうどうでもいいやという気もしたが、まあ言いだしたことははっきりさせておこうと思って、僕は実際にNHK ラジオ體操第一のメロデ?ーを唄いながら床の上でぴょんぴょん跳んだ?！柑Sってなんだい、それ？」 「跳躍といえば跳躍だよ。あれすごくうるさいから?！弗楗弗w操をやってもかまわない。やれやれ、と僕は思った。芝の上で」 「それも駄目なんだよ。屋上でやると三階の人から文句がくるんだ。六時(shí)半だろ？六時(shí)半は僕にとってはまだ寢てる時(shí)間なんだ。 「それやられると目が覚めちゃうんだ」 「でももう六時(shí)半だよ」と彼は信じられないという顔をして言った。しかし四日めの朝、僕はもうこれ 以上は我慢できないという結(jié)論に達(dá)した。三日間、僕は我慢した。覚まさないわけにはいかなかったのだ。 僕は だいたい夜遅くまで本を読み朝は八時(shí)くらいまで熟睡するから、彼が起きだしてごそごそしても、ラジオをつけて體操を始めても、まだぐっすりと眠りこんでいることもある。部屋に戻ってくるとパンパンと音を立ってタオルのしわをきちんとのばしてスチームの上にかけて乾かし、歯ブラシと石鹸を棚に戻す。顔を洗うのにすごく長(zhǎng)い時(shí)間がかかる。あのこれみよがしの仰々しい國(guó)旗掲揚(yáng)式もまるっきり役に立たないというわけではないのだ。そういうことについて話しだすと、彼はどもったりつっかえたりしながら一時(shí)間でも二時(shí)間でも、こちらが逃げだ すか眠ってしまうかするまでしゃべりつづけていた。洋服を選ぶのが面倒なのでいつもそんな格好をしているだけの話だった。靴も鞄もまっ黒だった。頭は丸 刈りで背が高く、頬骨がはっていた。彼が上段で僕が下段だった。僕は説明をあきらめた。そのためにわざわざと、東京の大學(xué)に入って、し、仕送りをしてもらってるわけだよ。 「わからないな」と彼は本當(dāng)にわからないという顔をして言った。ただたまたま演劇だったんだ、気が向いたのが。 「なんでも良かったんだよ、僕の場(chǎng)合は」と僕は説明した?；靵yするとどもりがひどくなった。 「別に好きじゃないよ」と僕は言った。講義要項(xiàng)にそう書いてあっただけだ。ラシーヌとか?ヨネスコとか、ンェークスビ?とかね」 シェークスビ?以 外の人の名前は聞いたことないな、と彼は言った。 「演劇って芝居やるの？」 「いや、そういうんじゃなくてね。 「き、君は何を?qū)煿イ工毪?？」と彼は訊ねた。しかし「地図」という言葉を口にするたびにどもってしまう人間が國(guó)土地理院に入りたがっているというのは何かしら奇妙であった。それは東京に出てきて僕が最初に感心したことのひとつだった。 「地図が好きなの？」と僕は訊いてみた。 突撃 隊(duì)はある國(guó)立大學(xué)で地理學(xué)を?qū)煿イ筏皮い俊Wが忙しくて三日風(fēng)呂に入らないとくんくん匂いをかいでから入った方がいいと忠告してくれたし、そろそろ床屋に行けばとか鼻毛切った方がいいねとかも言ってくれた。こちらが身のまわりを清潔にしている限り、彼は僕に一切干渉しなかったから、僕としてはかえって楽なくらいだった。あまりにもあっさりとみんなが信じるのでそのうちに僕も本當(dāng)にそうなのかもしれないと思うようになった。 「突撃隊(duì)はこれ見(jiàn)ながらマスターベーションするんだよ」と僕は言った。僕もとくにヌード寫真を貼りたかったわけでもなかったのでべつに文句は言わなかった。そのかわり?ムステルダムの運(yùn)河の寫真が貼ってあった。それからみんなは彼のことをナチだとか突撃隊(duì)だとか呼ぶようになった。カーテンというのは半永久的に窓にぶらさがっているものだと彼らは信じていたのだ。僕は他の連中に「あいつカーテンまで洗う んだぜ」と言ったが誰(shuí)もそんなことは信じなかった。床にはちりひとつなく、窓ガラスにはくもりひとつなく、布団は週に一度干され、鉛筆はきちんと鉛筆立てに収まり、カーテンさえ月に一回は洗濯された。そんなカオスの中からよく致命的な伝染病が発生しなかったものだと今でも僕は不思議に思っている。汗と體臭とごみだ。そしてどの部屋にもひどい匂いが漂っている。ほうきで掃いて集めてちりとりを使ってごみ箱に捨てるということを誰(shuí)も思いつかないのだ。ごみ箱の底にはかびのはえたみかんの皮がへばりついているし、灰皿がわりの空缶には吸殻が十センチもつもっていて、それがくすぶるとコーヒーかビールかそんなものをかけて消すものだから、むっ とするすえた匂いを放っている。機(jī)の上の本立てには教科書や辭書や小説なんかが並んでいた。しっくいの壁には「平凡パン チ」のビンナップか、どこかからはがしてきたポルノ映畫のポスターが貼ってある。どう好意的に見(jiàn)ても詩(shī)的な空間とは言えなかった。家具はどれも極端なくらい簡(jiǎn)潔でがっしりとしたものだった。二人部屋は六畳間をもう少し細(xì)長(zhǎng)くしたくらいの広さで、つきあたりの壁に?ルミ枠の窓がついていて、窓の前に背 中あわせに勉強(qiáng)できるように機(jī)と椅子がセットされている。それに僕にしたところで何かの折りにふとそう思っただけで、それを深く追求してみようなんていう気はさらさらなかったのだ。誰(shuí)もたぶんそんなことは気にもとめないのだろう。線路工夫やタクシーの運(yùn)転手やバーのホステスや夜勤の消防士やビルの夜警や、そんな夜に働く人々が國(guó)家の庇護(hù)を受けることができ ないというのは、どうも不公平であるような気がした。 どうして夜のあいだ國(guó)旗が降ろされてしまうのか、僕にはその理由がわからなかった。旗はするすると降り、桐の箱の中に収まる。 夕方の國(guó)旗降下も儀式としてはだいたい同じような様式でとりおこなわれる。そして二人は背筋をしゃんとのばして（気をつけ）の姿勢(shì)をとり、國(guó)旗をまっすぐに見(jiàn)あげる。 そして旗がするするとポールを上っていく。學(xué)生服がテープレコーダーのス?ッチを押す。學(xué)生服が中野學(xué)校にうやうやしく旗を差し出す。學(xué)生服が桐の箱をあける。中野學(xué)校はソニーのポータブル ?テープレコーダーを 下げている。學(xué)生服はもちろん、學(xué)生服に黒の皮靴、中野學(xué)校はジャンパーに白の運(yùn)動(dòng)靴という格好である。 僕は寮に入った當(dāng)初、もの珍しさからわざわざ六時(shí)に起きてよくこの愛(ài)國(guó)的儀式を見(jiàn)物したものである。そして中野學(xué)校氏とは逆に背が低く、小太りで色が白い。まあしかし學(xué)生服を著ているか らにはやはり學(xué)生なのだろう。食堂でも風(fēng)呂でも一度も顔をあわせたことがない。丸刈りで、いつも學(xué)生服を著ている。そのとなりにはこの國(guó)旗掲揚(yáng)を手伝う助手の如き立場(chǎng)の學(xué)生が控えている。いかにも硬そうな髪にいくらか白髪がまじり、日焼けした首筋に長(zhǎng)い傷あとがある。 國(guó)旗を掲揚(yáng)するのは東棟（僕の入っている寮だ）の 寮長(zhǎng)の役目だった。もちろん國(guó)歌も流れるし スポーツ ?ニュースからマーチが切り離せないように、國(guó)旗掲揚(yáng)から國(guó)歌は切り離せない。日常生活というレベルから見(jiàn)れば右翼だろうが左翼だろうが、偽善だろうが偽悪だろうが、それほどたいした違いはないのだ。 いずれにせよ一九六八年の春から七〇年の 春までの二年間を僕はこのうさん臭い寮で過(guò)した。たしかに寮には寮生の中のトップ ?エリートをあつめた特権的なクラブのようなものがあって、僕もくわしいことはよく知らないけれど、月に何度かその設(shè)立者をまじえて研究會(huì)のようなものを開(kāi)いており、そのクラブに入っている限り就職の心配はないということであった。いや、もっともっと深い読みがあるんだと言うものもいる。正確なところは誰(shuí)にもわからない。入寮案內(nèi)のパンフレットと寮生規(guī)則を 読めばそのだいたいのところはわかる。 この寮の唯一の問(wèn)題點(diǎn)はその根本的なうさん臭さにあった。本部建物の裏手には野球とサッカーの兼用グラウンドとテニス ?コートが六面ある。これも三階建てだ。一階には食堂と大きな浴場(chǎng)、二階には講堂といくつかの集會(huì)室、それから何に使うのかは知らないけれど貴賓室まで ある。窓のカーテンはどの部屋も同じクリーム色、日焼けがいちばん目立たない色だ。しかし決して不潔ではないし、暗い印象もない。中 庭の両側(cè)には鉄筋コンクリート三階建ての棟がふたつ、平行に並んでいる。根もとに立って上を見(jiàn)あげると空はその緑の葉にすっぽりと覆い隠されてしまう。門をくぐると正面には巨大なけやきの木がそびえ立っている。 その寮は都內(nèi)の見(jiàn)晴しの良い高臺(tái)にあった。僕としてはできることなら?パートを借りて一人で気楽に暮したかったのだが、私立大學(xué)の入學(xué)金や授 業(yè)料や月々の生活費(fèi)のことを考えるとわがままは言えなかった。寮の費(fèi)用は一人暮しのそれに比べて格段に安かった。そこなら食事もついているし、いろんな設(shè)備も揃っているし、世間知らずの十八の少年でもなんとか生きていけるだろうということだった。僕は十八で、大 學(xué)に入ったばかりだった。何故なら直子は僕のことを愛(ài)してさえいなかったからだ。私が存在していたことを覚えていて」と。だからこそ彼女は僕に向って訴えかけねばならなかったのだ。もちろん直子は知っていたのだ。そして直子に関する記憶が僕の中で薄らいでいけばいくほど、僕はより深く彼女を理解することができるようになったと思う。でも今はわかる。全てがあまりにもくっきりとしすぎていて、どこから手をつければいいのかがわからなかったのだ。でもそのときは一行たりとも書くことができなかった。直子との約束を守るためにはこうする以外に何の方法もないのだ。 しかし何はともあれ、今のところはそれが僕の手に入れられるものの全てなのだ。ひょっとして自分はいちばん肝心な部分の記憶を失ってしまっているんじゃないかとふと思うからだ?！妇韦长趣蛲欷椁欷毪铯堡胜い琛? ＊ それでも記憶は確実に遠(yuǎn)ざかっていくし、僕はあまりに多くのことを既に忘れてしまった。 「本當(dāng)にいつまでも私のことを忘れないでいてくれる？」と彼女は小さな囁くような聲で訊ねた。 直子は立ちどまってにっこりと笑い、僕の腕をそっとつかんだ。 「こっちにおいでよ。直子は小さな丘のように盛りあがったところを上り、松林の外に出て、なだらかな坂を足速に下った。梢を抜けてくる秋の光が彼女の上著の肩の上でちらちらと踴ってい た。私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことをずっと覚えていてくれる？」 「もちろんずっと覚えているよ」と僕は答えた。もしたとえそう見(jiàn)えなかったとしても、そうなのよ」 「また會(huì)いにくるよ」と僕は言った。ひとつはね、あなたが こうして會(huì)いに來(lái)てくれたことに対して私はすごく感謝してるんだということをわかってはしいの?！袱栅郡膜扦いい韦?。 「ねえワタナベ君、私のこと好き？」 「もちろん」と僕は答えた。でももし時(shí)間さえあれば僕は君のことをきちんと理解するし、 そうなれば僕は世界中の誰(shuí)よりもきちんと理解できると思う」 僕らはそこで立ちどまって靜けさの中で耳を澄ませ、僕は靴の先で蟬の死骸や松ぼっくりを転がしたり、松の枝のあいだから見(jiàn)える空を見(jiàn)あげたりしていた。私はただ自分に腹を立てていただけなの」 「たぶん僕は君のことをまだ本當(dāng)には理解してないんだと思う」と僕は言った。私の言ったこと気にしないでね。そして何度か首を振った。僕と直子はまるで探しものでもしているみたいに、地面を見(jiàn)ながらゆっくりとその松林の中の道を歩いた。暗くて、冷たくて、混亂していて……ねえ、どうしてあなたあのとき私と寢たりしたのよ？どうして私を放っておいてくれなかったのよ？」 我々はひどくしんとした松林の中を歩いていた。どうしてそれがわからないの？それがわからないで、どうして私の面倒をみるなんて言うことができるの？」 僕は黙っていた。一度力を抜いたらもうもとには戻れないの よ。ねえ、いい？もし私が今肩の力を抜いたら、私バラバラになっちゃうのよ?！讣绀违驋iけば體が軽くなることくらい私にもわかっているわよ。 彼女の聲を聞いて、僕は自分が何か間違ったことを口にしたらしいなと思った。肩にカが入ってるから、そんな風(fēng)に構(gòu)えて物事を見(jiàn)ちゃうんだ。もし君が僕を今必要としているなら僕を使えばいいんだ。そのときはあるいは君の方が僕を助けてくれるかもしれない。終ったところで僕らはもう